ここは、純喫茶『en 〜縁〜』。
税理士であり副業で喫茶店を運営するマスターのケイさんと将来税理士になりたい大学生のマユミさんが織りなす居心地のよい場所。やさしく、わかりやすく教えてくれるマスターのところには、相続で悩む常連さんからの相談が絶えません。
今日は高田さんが来店。
高田さんは先月、ご主人を亡くしたばかり。相続税について気になることがあったため、マスターに聞きたいことがあり、来店したそう。高田さんの心配を一緒に聞いてみましょう。
それでは、そっと覗いてみましょう。
○本日のポイント
基礎控除額を超過している財産を所有していた場合には相続税申告が必要
場合によっては、相続税がゼロなのに申告書の提出が必要となるケースも

マスター、私は主人と結婚して50年。ずっと一緒に生活してきて、時には鬱陶しいなと思うこともありましたが、いざ居なくなると寂しいもんですね…

高田さん、心中お察しします。近くにいるとわからないことも多いのは確かですよね。居なくなって初めて存在感に気づくというのは全ての夫婦に伝えるべきことかもしれません

そうですね、こんな感覚になるなんて思いもしなかったですよ…それはそうと、今日は相続税について聞きにきたんですの。

どんなことですか?

私たち夫婦には娘が一人居ました。他県に嫁いでしまったので、会えるのは年に数回でしたが、その娘が今回の相続では全ての財産を私に相続するようにと言ってくれています。

優しい娘さんですね。ここはありがたく頂戴して、今後の生活の基盤にしていきましょう。

そこで心配なのが、相続税の申告をする必要があるかということです。何でも、夫婦間は1億6千万円までは相続しても相続税が掛からないと聞きましたが、主人の財産はとてもそんな金額にはなりません。なので、申告をしなくても良いのではないかと考えているのですが合っていますでしょうか?

高田さん、よくご存知ですね。相続税は夫婦間での相続の税金を優遇しています。配偶者の税額軽減と言いますが、夫婦間で相続し合った場合に①1億6千万円、②配偶者の法定相続分のどちらか多い金額までは相続税が掛からないと言うものです。

家の名義変更をしてくれた司法書士さんに聞きましたの。だから心配ないと思っているんですが、何せ初めての事づくしで心配で…

そうですよね、相続をたくさん経験する人は少ないので心配ですよね。では結論から申し上げると、ご主人の財産がいくらあったかによって相続税の申告の要否が決まります。

財産が1億6千万円に満たなくても必要なんですか?

その通りです。相続税の申告の要否は基礎控除額というものを超えているか否かで判断します。例えば高田さんのご主人の相続人は高田さんと娘さんの計2人ですので、基礎控除額は4,200万円となります。

えっ、そうなんですか?主人の財産は金融資産約5,000万円と自宅ですが、評価は約1,500万円と聞いています。マスターがおっしゃる基礎控除額、超えていますね…と言うことは相続税の申告が必要ということですね。

その通りです。相続税の申告書を提出する必要はあるけど、結果として相続税を支払う必要はないということですね。

何でこんなことが必要なのでしょう?夫から相続したものなんだから、申告はいらないと思うんですけど…

その通りですよね。でも税務署の立場からすると、高田さんのご主人の財産がいくらあって、誰が何を相続したかわかりませんのでその結果報告として申告書を提出してくださいねということなんだと思います。

そうですね、税務署からすると誰が何を相続したかわかりませんもんね。では、今回の件は相続税申告が必要であることがよくわかりました。

よかったです。それではまずは相続税の申告書の提出について手続きしていきましょう。と言いたいところですが、一つ気になるのが次の高田さんご自身の相続のことです。

私の相続?

そうです。高田さんもいずれ亡くなりますが、その時には高田さんの固有財産とご主人から相続した財産を足したものが次の相続税の対象となります。結果として娘さんの負担が多くなってしまうかもしれません。

私個人の財産は、金融資産のみで約3,500万円です。主人から相続した財産を足すと約1億円ですね。ここではどんな対策が考えられるんでしょうか?

大袈裟なことを言いますが、相続税の観点からは高田さんはご主人から財産を相続しない方が相続税負担は少ないかもしれません。

えっ、配偶者の税額軽減があるのに?

二次相続で大きな相続税を支払う可能性があるということです。計算してみましょう。
①高田さんがご主人から全財産を相続する場合 一次相続 ゼロ 二次相続 1億円–3,600万円(基礎控除額)=6,400万円 6,400万円×30%−700万円=1,220万円 計 1,220万円 |
② 高田さんがご主人から財産を相続しない場合 一次相続 6,500万円−4,200万円(基礎控除額)=2,300万円 (高田さんの分) 2,300万円×1/2=1,150万円 1,150万円×15%−50万円=122.5万円…① (娘さんの分) 同上 ①×2人分=245万円 二次相続 ゼロ 計245万円 |
どうでしょうか?約1,000万円も違う結果となりました。 |

何だか狐につままれたみたいです。財産の分け方でこんなに相続税が変わるなんて…

マスター、高田さんにもらうなって言ってるの?

とんでもない。私は相続税より大切なものがあると思っています。高田さんのこれからの生活が一番大切です。だからこそ娘さんも全てを高田さんに相続してほしいと言ったんだと思います。ただ、それの裏返しとして相続税の負担が大きくなってしまう事実を伝えたかったのです。

確かに、これを聞いたらちゃんと娘と話す必要があると感じました。娘も良かれと思って提案してくれた結果が国に税金を納める手助けになるなんて想像もしませんでしたよ。

そうですね、娘さんの優しさが仇となってはいけませんので、しっかりと話し合いしてみてください。

わかりました。困ったらまた相談にのってくださいね。
○ おさらい
基礎控除額を超過している財産を所有していた場合には相続税申告が必要
場合によっては、相続税がゼロなのに申告書の提出が必要となるケースも
本日のコラムは、いかがでしたか?皆様もハッとする部分があったかと思います。
中園一樹会計事務所では、相続に関する相談を受けております。お客さまごとに相続対策は異なりますので、まずは専門家である私たちに相談してみませんか?